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このホームページは車内月刊誌プリーズをもとに制作されています。
 絵筆も演劇もひとつの生き方。 〜米倉 斉加年〜 

2006年5

 
―「私たちが子どものころは、紙は貴重品でしたからね。家の前のたたきに蝋石か白墨で絵を描いた。午前中に始めると、お昼ごろには、らくがきで埋まってしまう。通る人が上手かねえってほめてくれた。私の最初のキャンバスは、大地、二本の足で立つ地面だった」この絵の好きな少年に、千両役者はこの次いつ来るかわからん、学校は明日もあるといって休ませてまで芝居小屋に連れて行くような祖母に育てられた。つまり俳優、演出家にして絵師のルーツは、こうした環境にあったに違いない。

 そして高校2年の時、バスケット部の友人たちと文化祭で、演劇部に対抗して自分たちもやろうということになった。菊池寛の「父帰る」を企画した。米倉さんは、帰ってくる父の役だった。演劇部よりも評判がよく、みんな鼻高々だった。これが初舞台だった。なんとなく始めた芝居は、その後演劇部から応援を頼まれるようになり、大学に入ってからも演劇部に籍を置く。福岡にある五つの大学による合同の演劇祭などで演劇の本質に触れる。このころから本格的に演劇を学ぶなら、上京しかない、そのエネルギーは次第に大きくなってゆく。矢も盾もたまらず東京へ旅立ったのは、二十歳の時だった。

 その後俳優修業については、劇以上に劇的、苦労に苦労重ねて、劇団民藝に入り、生涯の師となる宇野重吉と出会う。自ら役者と感じたのが、サミエル・ベケット作「ゴドーを待ちながら」今でも不条理演劇の代名詞となっている難解な芝居である。宇野さんと二人3時間余り出ずっぱりの舞台。三ヵ月もの稽古は、熾烈を極めた。これが1965年(昭和40年)である。以後舞台は「コンベア野郎に夜はない」、金芝河(キムジハ)の「銅の李舜臣(イースーシン)」「鎮悪鬼(チノギ)」、越路吹雪と共演した「古風なコメディ」、木下順二の「オットーと呼ばれる日本人」や、数々の民話劇には、出演し演出も手掛けた。

  「旅公演に出かける際、人それぞれ何か余分なものを持って行く。ある人は編物だったり、釣り道具だったり。米倉斉加年は必ず絵の具と和紙入れの筒と小さな電気スタンドを携行する。芝居がハネて、宿舎に戻りみんながくつろいでいるころ、彼は一人部屋にこもって絵を描く。ぼくはその現場を見たことはないのだが、確かにそのようなのである」と師の宇野さんも書いているように今も片時も絵筆を離すことがない。

―芝居の演技も、絵筆も、芸術表現に生命を賭けている人間から湧き出てきたものだから、その源泉は一つであろうとする。  「絵本を娘と一緒につくるのが夢でした。途中で娘は結婚しました。そして息子が生まれました。その子が四歳になりました」このような願いから生まれた一冊の絵本。つまり母となった長女のかのさんが文章を書き、祖父の斉加年さんが絵を描き、孫に読ませるという、なんとも羨ましい夢が実現したのが「トトとタロー」だ。

 今また取り組んでいるのが、郷土の伝説を劇化すること。その舞台に上がるのは、そこに住んでいる人たち。自分たちがどう生きているか、次の世代へどう伝えるか、を一緒に考えたい。「この舞台は皆さんが主役、私も少しだけ出ます」

―舞台をやることも、絵を描くことも、私にとっては生きていることである、と米倉さんは、明日を見つめる。

聞き書き=H.M.Typhoon

米倉 斉加年(よねくら まさかね)
  1934年福岡市生まれ。1957年劇団民藝へ入る。
宇野重吉に師事し、数多くの宇野作品に出演する。
2000年に劇団民藝を退団、現在フリーとして、映画、テレビ、舞台に活躍中。
また絵師としても、1976、1977年連続してボローニャ国際児童図書展 グラフィック大賞を受賞するなど多才ぶりを発揮している。
 
 
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