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 500年かけて作り続けたい。 〜外尾 悦郎〜 

2006年1

 
―古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、「芸術は自然を模倣する」という言葉を残した。スペインの建築家アントニオ・ガウディの作品群は、まさにこの言葉を具現したかのような有機的なフォルムと力強い躍動感にあふれている。バルセロナの青い天空に向けて伸びる尖塔を持つ「サグラダ・ファミリア聖堂」はその代表作だ。1882年に着工し、今なお工事が続くその現場で、四半世紀以上にわたってノミを振るう一人の日本人彫刻家がいる。福岡市出身の外尾悦郎さんである。

 「芸術大学を卒業してしばらく学校の教師をしていたんですが、どうしても石を彫りたくなったんです。最初はドイツに行くつもりでしたが、その途中に偶然立ち寄ったのがバルセロナでした。サグラダ・ファミリアの現場を覗いてみると、横の方に石の山が積んであるんですよ。それで『ちょっと彫らせて貰えないか』と頼んだのが、最初のきっかけでした」

―当然、現場の責任者が、すぐに首を縦に振るはずがない。考えを巡らせた外尾さんは地元の著名な彫刻家に面会を求め、紹介を受けることになった。そして見事試験に合格し、専属の彫刻家として採用される。

 「今考えると、それは20年後のための試験だったような気がします。しかも、いったん認めると外国人であろうが信頼して仕事を任せるというのは、カタルーニャ(バルセロナのある地域)の懐の深さ、度量の広さを感じます」

―外尾さんは福岡市生まれの博多っ子。子どもの頃から行動力があり、好奇心の赴くままに知らない町を歩きまわるのが好きだったという。長じるにつれて交通手段も徒歩から自転車、路面電車、バス、列車とその行動範囲は広がっていき、小学校高学年の頃には長崎に一人旅するまでになった。

 「知らない町の角を曲がるのが好きでしたね。自分を試してみて、自分に何ができるのかをずっと探していたような気がします。それで高校生の時に漠然と何か大きなものを作りたい。そうだ建築だと思い、まずは造形を学ぶために京都芸大に進んだんです。大学では木も鉄もやりましたが、石だけがどうも自分の思い通りにいかない。そこで石を彫っている先生に出会って、今に至っています」

―少年の頃から何かを探して、それが何か分からないまま、新しい何かに出会う。そうやって少しずつ角度を変えながら行き着いた先が、ガウディの建築だった。
 '05年、サグラダ・ファミリアの中でもガウディ自身が手がけ、その後に外尾さんが天使の像を彫った「生誕の門」の部分が世界文化遺産に登録された。ガウディは生前、「自分が生きているうちには完成しない。数百年かかるだろう」と予測したと伝わっている。


 「生誕の門は20世紀最後のクリスマスまでに、ガウディがやり遂げたかったものを完成させたかった。しかし、全体の完成を急ぐことがいいのかどうかは疑問です。私の希望を言えば、あと500年作り続けてほしい。もし、500年後に完成を迎えたならば、その間、戦争がなく平和な時代が続いたという証拠になるからです」

―人々が平穏に暮らすことを目的に、ガウディがその持てる才能のすべてを捧げた神の家。サグラダ・ファミリア聖堂は、'05年124回目のクリスマスを迎えた。

文=江月義憲

外尾悦郎(そとお えつろう)
  1953年福岡市生まれ。
京都芸術大学彫刻科卒業。
'78年からスペイン・バルセロナ市のサグラダ・ファミリア聖堂の彫刻を担当。
現在、同聖堂の主任彫刻家として活躍。
'05年、福岡県文化賞、リヤドロ・アートスピリッツ賞受賞。
著書に『バルセロナ石彫り修行』『バルセロナにおいでよ』(ともに筑摩書房)などがある。
 
 
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